東京都には駅を出ると商店街がお出迎え、といった構えの町が多くあり、例に漏れずうちの最寄り駅も商店街が備わっている。
通りにはスーパーやコンビニ、ドラッグストアから居酒屋カラオケ喫茶店と一通り生活に必要な施設が出揃っており、行き帰りに通るだけでちょっとした用事が全て済んでしまう。何をするにも車での移動が必須だった地方出身者としては、こういう所から身に染みて東京の便利さを思い知らされる毎日だ。
引っ越した当初は気にも留めていなかったがこの商店街、入口と出口にそれぞれタコ焼き屋がある。一つは大手たこ焼きチェーンの店舗、もう一つは恐らく個人経営のお店だ。
この長くも短くもない商店街にタコ焼き屋が二つ。前門のタコ、後門もタコ。足は合計16本。定食屋や喫茶店ならまだ使い分けのしようもあるが、タコ焼き屋二つを使い分けるのはあまりに難しい。メニュー、たこ焼き6個か8個か10個ですからね両方とも。恋人と行くのはこっち、浮気相手とはこっち、ぐらいの住み分けぐらいにしか使い道が思い当たらない。
(もしかしてこの町の人間はタコ焼きが大好きなのか…?)
(何らかの理由で関西圏からの移住者が多い…?)
と立地の理由を探してみるも、いつ覗き込んでも店内はガラガラ。出口の方のタコ焼き屋でおばあさんが「タイ焼き」と店員さんに向かって言っていたのを見かけたきり、テイクアウトのお客さんも見かけない。どうやら地域需要からの林立ではないらしい。
そんな我が町に、やってきてしまったのである。第三のタコ焼き屋が。心なしか
「この通りタコ焼き屋多いし、もしかしてこの町の人間はタコ焼きが大好きなのでは?」
という本店側の声が聞こえてくるようである。あまりに悲しすぎる。全員死ぬのわかってて見る火垂るの墓のよう。
「オープニングキャンペーン!タコ増量!」
デカデカと張り出されたカラフルなポップ体が涙を誘う。違う、そうじゃないんだよ。
「タコ焼きだけじゃない!タコスもあるよ!」
そんなユーモラスな一面が余計つらい。チームのムードメーカーのデブが骨折して選手生命絶たれる的な、やり場のない悲しみで町民一同胸が一杯である。
物珍しさから三店舗目は開店当初こそ客足があったものの、今では三店舗で閑古鳥が合唱団を組んでいる。
あんまりにも客を見かけないので
「どのお店から潰れるんだろう」
「あいたテナントには、ファミレスやファーストフード店ができればいいな…」
と失礼なことを思いながら(たぶん町の人全員思ってる)タコ焼き屋たちの行く末を案じていたのだが、そんな愚かな民への天罰と言わんばかりに四店舗目が爆誕したのが先日の話である。
閑古鳥たちがバンドを組む準備をしている。