善人とハワイ

 平日、観たいバンドがあってライブハウスまで出かけたのだけど、親譲りの心配性が功を奏し2時間前に到着。待ち合わせに早く来すぎるヤツは自分のルーズな性格を理解してるクセにしっかりとした予定も立てられないけど遅刻はしたくないという意識だけ強くあるクソ野郎だと最近本で読みました。大当たりです。ハワイ旅行ペアチケットをプレゼントするのでもう俺をこれ以上傷つけないでください。

 その日は例に漏れず、平日によくあるジャンルごちゃ混ぜの客よりも身内や出演者の方が多いようなイベントだった。フロアに4人。これから始まるのはライブですか?マリオカートですか?そんな状況なので出演者とおぼしき人にお前誰だよ的な視線をビシビシぶつけられる。客です。

 いよいよ次の次が目的のバンドだ、となったときにステージに上がってきたのは20代前半ぐらいの女の子一人。同い年くらいに見えるけど不慣れな感じからして、もしかしたらちょうどハタチくらいかも。

 最初は聴く側としても、申し訳ないけどあんまり興味が持てなくって、注意散漫に「あー、女性でアコギ一本のシンガソングライターってたまに見かけるよなあ」ぐらいの印象で見ていたのだけれど、その子がいやにニコニコしながら「明るく前向きに生きていきましょう!」「まだ聴いてくれる人は少ないけれど歌えることが幸せ!」的な、こう、心の内臓みたいな部分を悪気なく触ってくるような唄を歌うもんだから、もうなんだか俺は視線の逃げ場を奪われ義務感に駆られ顔を上げていた。

 他の出演者は楽屋か外に、数人ばかりの客はほとんどがスマホの画面を眺めていた。大学で人気のない先生の授業ってこんな感じだったなあ、別に代表者でもなんでもないくせになぜか一人で申し訳なくなって「俺はちゃんと聞いてるッスよ」みたいな顔してたな、と懐かしい居心地の悪さが過った。

 数曲終わると自己紹介の後「終わったあと、ささいな感想でもいいのでフロアで話しかけてくれたら嬉しいです!一緒に頑張っていきましょう!」と、歌っているときと変わらないニコニコ顔で話しだした。たぶん、演技じゃなくて心底そう思っている顔つきだった。ゾッとした。俺はこういう底抜けない善人が怖い。「この卑怯な悪人め」と自分を批判されているようで目を背けたくなるし、そういう人は俺のような小ズルさもないから殉教者のようにまっすぐな目で清く正しく破滅に向かっていく。

 彼女は今日も11時手前まで一人で清算を待って、ライブハウスに安くないノルマを払って、デカいギターを持って満員電車に乗って、一つの実りもなく帰るのかとおもったら、一言声でもかけてあげようかなんていう風な考えがよぎった。のだけれど、頭の中までなんて失礼なんだろう俺は、と誰とも話してすらいないのに一人で胃を痛くした。「良かったよ」なんて心にも思っていないことを言ったって、それはたぶんきっと俺が俺のことを優しい人間だと思いたいだけの身勝手な嘘になってしまうし、かと言って求められてもないのに具体的なアドバイスを赤の他人に投げかけられるほど、恥も外聞もなく優しくはなれない。できるのはせいぜい、こういう失礼なことを考えるくらいだ。たぶん俺が子供の頃「学校を辞めたい」と言ったとき、うちの父がテレビから目を離さずに押し黙ったのも、これと同じような沈黙だったんだろう。

 最近とにかくこういうことが多い。せめて「鼻毛出てるよ」くらいは人に言えるように頑張りたい。

-雑記

1991年8月4日生まれ。獅子座のO型。