「なんでバンドが好きなの?」って訊かれたけど、正直自分が聴いても怒られない音楽ってこれしかなかっただけな気がする。

 身の程って、弁えるじゃないですか。

 同じクラスだけどあんまり仲良くない星野くんちに数合わせでお呼ばれして、初めてマリオカートやったときも

「いや、俺なんかがヨッシー・クッパなんか使ったら贅沢。明日から小学校で何を言われることやらわからぬ。無難にルイージあたりをチョイス」

 みたく人目を気にしてわざわざ卑屈を選んで。そんな俺は成人しても何かにビクビクと怯え苛まれている気がしている。何かとは?たぶん世間とか、社会通念とか、真昼の日差しとか、そういう無言の圧力に。

 なので未だに、初めて入った定食屋なんかで一番高いセットとか頼んだら店の端で朝日新聞読んでる常連のジジイに

「ケッ、素人がイキり腐りやがって。日替わりランチからやり直しなッ」

 みたいな顔されるんじゃないかとか。ありもしないこと考えてビクついている。

 自分が一番注文したいもの!じゃなくて、自分が注文してて一番格好がつくもの!を選んでいるいつも。バカみたいですね。ジジイはきっと俺の事なんか1%も気に何かせず頭の中「巨人快勝!」とかで忙しいんだろうに。

 

「なんでバンドが好きなの?」

 最近そういう質問をされた。もっと皮を剥いて話せば「なんでART-SCHOOLとか好きなの?」という中身の質問だった。その質問をしてきた女の子に悪気はないようだった。「なぜART-SCHOOLみたいな辛気臭いなんかを」なんていうニュアンスではなく、ただ不思議そうにそう訊いてきた。彼女の顔色は俺がルイージを選んだ時「えっ」と小さな声で言った星野君の顔色と同じ肌色だった。

 

 たまたまART-SCHOOLが例に挙がっただけで、今の10代も、俺より前の10代も、メインストリームに乗らずにバンド音楽なんかを聴いてしまった人間はだいたいが俺と同じくビビリの阿呆なんじゃないか。乗らなかったんじゃなくて乗ったら怒られそうで乗れなかったのだ。

 自分が聴きたいもの!じゃなくて、自分が聴いてて一番格好がつくもの、許されるものを選んでいるいつも。バカみたいですね。実際バカだったし膨大にある音楽の種類からいざ聴くものを選ぶ!となったとき、そういう指標しか最初はなかったのだ。繰り返しになるけれど。バカみたいですね。

 今になれば、ひたすら逃げて逃げて逃げた先に、たまたまあったのがバンド音楽だったのかもと思う。逃げるっていうのは、たとえば昼休みになれば我が物顔で教卓に手をついて友達と大声で話すことを許されている、同じクラスにいる俺とは別の人種の人たち。星野君みたいな。そういう人たちと、それにくっついて聴こえてくる音楽から。

 平たく言ってしまえば「俺なんかがテレビで賑わうノリノリのJPOP聴いちゃいけないんじゃないか」そういう後ろ暗さがあった。未だにある。Back Numberが聴けないだのなんだの記事で書いたことが何度かあるけれど、本当に「聴かない」「聴いてられない」じゃなくて「聴けない」のだ。

 もしも俺が一人夜中にBack Numberなんか聴きながら元カノの好きだったコーヒーを啜り悦に入ったりなんかしちゃった日にはとんでもないことが起こるんじゃないか?なんか警察とか妖怪とかが家に入ってきて俺の事を「柄じゃないことをしましたね?」ぐらいの冷静な感じで滅茶苦茶怒るんじゃないか?と無意識がブザーを鳴らす。だから、怖くて聴けないのだ。わからない人にはわからない感覚でしょうけど本当です。恐ろしいのです。

 そうやって逃げてきました俺は。恋人がせびるディズニーリゾートの年間パスから、ゴールデンタイムのバラエティー番組から、学校に行かぬ俺のことでモメる両親の怒声から、逃げて逃げて逃げた先に

 

「ああ、これなら聴いても誰にも叱られない気がする」

 なんだかそう思ったんじゃないか当時十幾つかの俺は。もちろん憶えちゃいないけどそんなこと、でも滑り落ちた先にあったのがバンドだった気がする。

 別に俺に限った話でもなく、自分の意思で好きなものを選んで自由に生きることができる人間は、人目・無言の同調圧力ばかり気になるこの国には随分少ないと思う。誰も彼もが人目に手を動かされて何かを選んでいる。この国は、インスタグラムだ。俺もあなたもたぶんそういう節がある。

 だから曲名もよく知らぬままEDMを聴く星野君、代官山のカフェでホイップを掬う女、女性声優にリプライを送るメガネ、全員が全員

「あ、自分はこれやってたら格好がつくな」

 なんて無意識にはじかれはじかれ滑り落ちて生き方を決めていると俺は思っています。本人が否定しようが、俺はそう決めつけるよ。

 

 溺れる者が掴むものはいつも確実に藁。俺と同じ溺れ方をした奴は大体バンドかアニメに走る。

 自ら好き好んで「かっこいいから」とバンドなんていう藁の良さに気が付くハイセンスなガキ、そういてたまるもんかと思う。

「溺れていました」

 と正直に言ったらいい。俺はそうだった。ダサい人間だからカッコイイ音楽を聴くようになった。

 でもこの藁、割と悪くないじゃん。一生掴んでられるじゃん。と思えるので俺はこれでよかったです。溺れていてよかったです。

 あなたの掴んだ藁が、素敵な藁でありますように。

 

-雑記
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1991年8月4日生まれ。獅子座のO型。