「母さんね、Eカップになったんよ」
Eカップの話題で股間が立つことは何度もあったが、腹が立ったのは初めてだった。母さん、本当に興味ないです。
俺が女性のことを歩くホルモンバランスだと考えているのは、周期に合わせてイラついて父とよくケンカをしていた母の影響が大きいのだけれど、そんな母ももう生まれて半世紀になるそうでホルモンバランスと共に体調を崩すようになったそうだ。
「だから産婦人科行ったらピルを飲むように勧められて」
Eカップになったそうです。
元々が何カップなのか知らないし、知りたくないので、何ランクアップしたのかはわかりませんが、女性のみなさん豆乳とかスムージーとか飲んでる場合じゃないですよこれは。
そういえば昔、ちょっと仲の良かった友人に「DJ女性ホルモン」という男がいた。
「俺、彼女にピル飲ませてるんだよねー」
みたいな、大学生にありがちなヤツじゃなくて、彼はどこそこから手に入れてきた低用量ピルを自ら服用していた。毎日低用量ピルの話をするので低用量ピルを略して「女ホル(じょほる)」と呼んでいた。
性同一性障害とか、女装願望とか、そういうことではないらしく、ただ中性的になりたいと彼は仕切りに言っていた。顔かっこよかったんだけどね。本人は満足いってなかったらしい。あと今思えばDJって何だったんだ。奴にディスクジョッキー要素一つもなかったんだけど。
彼のツイッターには女ホルによる人体の変化が克明に記されていた。
「気持ちが優しくなった」
「髪質が良くなった」
「肌が白くなった」
「性欲がなくなった」
「飲まないとイライラする」
「胸が膨らんできた」
「ていうか太った」
なんというか、俺たちは俺たちのことを命があって心がある人間だという風に思いがちだけれど、薬一つ、女ホル一つで、こんなに露骨に身体にも心にも変化がもたらされるなんて本当にただの物理現象だなと思う。
婆さんがボケて別人のように優しく幼くなった時、ズボンを履きながら画面越しでまだ喘いでいるAV女優の顔に腹が立つ時、ルナルナの周期通りに彼女が不機嫌になる時。そういうことを思う。心ってなんだ。
とにかく、女ホルは彼のパーソナリティの一部になってしまった。俺は「性格が変わった」と言う彼と話しながら、向かい合っている相手がこの男なのか、女性ホルモンなのか、よくわからなくなった。
とにかく、言えるのは、ピルでおっぱいは大きくなるみたいです。
それだけ。